点訳ネットワークとは

筑波技術大学 情報・理数点訳ネットワーク

大学での学業には、学習資料の利用が欠かせません。学習資料には、教科書や参考書として指定される書籍をはじめ、授業で配布される資料や学生が主体的に見出すべき資料など、さまざまなものがあります。視覚障害を持つ学生が使う学習資料の確保は、本人や周囲にとって大きな課題です。

近年、このことをめぐる状況が、IT(情報技術)によって目立って好転しました。ひとつは、点訳作業の能率が、PC(パソコン)の活用で飛躍的に向上したことです。学習資料を保障する実務の中核である点訳は、主にボランティア組織や個人によって担われてきました。そうした点訳者にPCでの作業が普及した結果、点字資料が以前に比して迅速に提供されるようになったのです。同時に、点字資料が電子データ化されて、利用上の不便が軽減されました。音訳や録音資料についても、これと同様の方向に進展しています。

一方、PCやインターネットの普及で、社会全体における情報の電子データ化が進み、電子データの利用が拡大したことも重要です。電子データは、すべてを完全にとはいかないものの、PCで点字や音声に自動変換して、視覚障害学生が独力で利用することができるからです。実際に、視覚障害学生がインターネットで参考資料を収集したり、教員からの配布資料が視覚障害学生に電子データで提供されたりしています。また、印刷された資料を、文書読取装置を使って学生が自身で電子データにすることも可能です。このように、視覚障害学生の学習資料に関する状況は、以前に比べるとかなり改善されました。とはいえ、今なお問題も多く残っています。たとえば、情報系や理数系分野の学習資料の確保が容易でないことです。その背景には、これらの分野の点訳や音訳を行える人材が極めて少ないという事情があります。また、数式などの特殊な表記や図表を点字や音声に自動変換する方法がないことも一因です。すなわち、情報系や理数系の学習資料は、単に機械的に読み取って電子データ化するだけでは、視覚障害学生はすぐには利用できないのです。

ところで、今日の情報化社会では、ITの利用に精通していることが重要です。そこで、大学の教育カリキュラムには、専攻分野を問わず、情報系科目が設定されています。したがって、大学で学ぶには、視覚障害者も、その履修を避けて通るわけには行きません。というよりも、視覚障害者にとってITの利用は、障害を補償するために不可欠ですから、本来、情報系科目は進んで履修しなければならないのです。ところが、履修の効果を確実なものにするための学習資料を、視覚障害学生は確保しにくい状況にあります。筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターでは、このような状況を改善する目的で、文部科学省の平成18年度特別教育研究経費による「高等教育のための学内外視覚障害者アクセシビリティ向上支援事業-視覚障害者用学習資料の製作拠点の整備」の一環として、「筑波技術大学情報・理数点訳ネットワーク」を開設しました。これは、情報系や理数系の科目の受講に利用できる点字図書を製作するための点訳組織です。ここで製作された点字図書は、視覚障害学生が学ぶ大学等に学習資料として広く提供されます。情報系や理数系の分野の学習では、特に初学者にとっては、音訳資料よりも、文字である点字による資料のほうが有用との判断から、まずは点訳のための組織を開設することとしました。

その準備は平成18年度初頭から始まり、首都圏の六つの点訳グループがこの組織に参加してくださることになりました。初年度の点訳対象は、情報系や理数系の学習資料のなかでも整備が最も急がれる、ITの基本を学ぶための書籍としました。そこで、夏から秋にかけての時期、参加の各点訳グループに対して、その分野の専門点訳に必要な、情報処理用点字についての知識を習得する研修を実施しました。どのグループも、点訳そのものでは十分な実績がありますが、情報処理用点字の使用経験がない点訳者もおられたため、この研修が必要でした。

また、同時に、本ネットワーク用の「点訳基準」を策定する作業を始めました。点訳基準は、製作される点字データの表記や書式などの統一を図るために欠かせないものです。原案に対する各グループからの意見を取り入れてまとめた『点訳基準暫定版』が、10月に開始された点訳作業のいわば指針となりました。ですが、これにはまだ不備があり、点訳作業の開始に合わせて開設された、本ネットワーク所属の点訳者のメーリングリストには、点訳に関する問い合わせや意見、提案が多く寄せられました。その中には、点訳基準に明記すべき事項もあったことから、暫定版の上にそれらを反映させた、この『筑波技術大学情報・理数点訳ネットワーク点訳基準(平成18年度版)』を製作しました。前述のとおり、本年度は、主にIT関連の書籍の点訳を行っています。それゆえ、この基準は当該分野の専門点訳に関連する事項を中心に策定されています。今後、本ネットワークが手がける分野が拡大すれば、それに応じて基準の内容を拡充することになります。この基準が、本ネットワークの発展の確かな支えとなることを願う次第です。

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